「米国などはマスクなし解禁?」「日本の接種なぜ遅い?」峰先生に聞くワクチンの疑問(後編)

構成・文:Yahoo! JAPAN 制作協力:病理専門医 峰宗太郎

―新型コロナワクチンは、なぜこんなに早く開発できたのですか? ワクチンや医薬品の開発は、本来は数年から10数年かかるほど大きな事業ですが、今回は世界的な大流行(パンデミック)が起こったことを背景に、世界中の研究者や製薬会社、そして政府が一丸となってワクチン開発に取り組んだ結果だと言えます。

ワクチン開発がすばやくできた要因をまとめると以下のとおりです。

・SARS・MERSの研究蓄積
新型コロナウイルスは、2002年に流行した「SARS」や2012年頃に起こった「MERS」という病気をひきおこすウイルスに非常に似ていると言えます。
これらのウイルスに対しては研究が進んでいたこともあり、今回、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が見つかってから、研究がすばやく進められました。どのようなワクチンを作れば良いか、ウイルスのどこをワクチンのターゲットにすれば良いかの方向性が早くに判明したこともあって、新型コロナウイルスの正体が突き止められてから、わずか1か月でワクチンのプロトタイプ(試作品)を作ることができたのです。

・新テクノロジーの開花
今回、最も早く開発が完了したワクチンは「メッセンジャーRNAワクチン(mRNAワクチン)」という技術を使っています。mRNAワクチンそのものは20年以上開発が進められてきたものなので、技術的に成熟していたと言えますが、これまでヒトに対して使用を承認されたものはありませんでした。今回の新型コロナワクチンがmRNAワクチンを使った世界初の事例というわけです。

mRNAワクチンにはいくつも利点があります。大きな利点としては「開発がとてもしやすい」ということ。また比較的「ワクチン製造をしやすい」という特性もあります。
技術的な難易度は高いものの、さまざまな利点があったおかげで、開発がスムーズに進んだと言えます。

・資本や人的資源の大量投入
このパンデミックにおいて世界中の資本や人的資源が大量投入されたことも追い風でした。被害が甚大だった欧米の政府をはじめ、さまざまな財団等から多額の資金援助があり、研究開発に大きな進捗をもたらしました。

・すばやい審査体制の構築
認可当局である米国のFDA(アメリカ食品医薬品局)などは、臨床試験を行っている段階からプロトコール(確実に実行するための手順)の内容などを審査して認可を早める体制を構築しました。時間短縮と透明性を担保したすばらしい取り組みです。

ほかにも多くの方が臨床試験に参加したことなど要因はたくさんありますが、要するに世界各国の人がみな同じ方向を向いてワクチン開発に取り組んだということだと思います。それが果たせたのは、「コロナ禍」というパンデミックが人類共通の課題であるからにほかなりません。

―なぜ米国、英国やイスラエルは接種が早く、日本では遅いのですか? 米国や英国はワクチン接種を2020年12月から進めており、早くから接種に取り組んでいたこともありますが、そもそも"自国製のワクチン開発に成功している"というアドバンテージが大きいです。自国なので、優先的な供給ができます。最初は日本と同じくそれほど接種ペースが上がらなかったものの、両国ともワクチン供給や分配、接種体制の構築などを戦略的に行うことによって、急速に拡大しました。

イスラエルは、早くからファイザー社製ワクチンの大量供給を受ける契約を行い、国を挙げて接種に取り組みました。

これら3カ国に共通するのは、かなり早い段階でワクチン戦略を策定して準備をはじめ、実際に接種を開始したことと、国が強いリーダーシップをもって接種体制を拡大したことだと言えるでしょう。

日本は自国のワクチンが未承認であり、他国の開発したワクチンを輸入して使用しなければならないという制限があります。さらに輸入したワクチンを国内で臨床試験して安全性を確認した後に承認するプロセスを踏みました。
当初はワクチンの供給量が限られていたこともあり、現時点の接種率は前述の3カ国と比較して、大幅に低いという状況です。

ただ、ここからはワクチンの供給量が安定してくると思いますので、それに伴ってワクチンの接種率も上がっていくと考えています。

―接種が進んでいる国では元の生活を取り戻しつつあるのですか? 前述したイスラエルなどではワクチンの接種率が高まっていることもあり、「リ・オープニング」つまり社会活動を再開しはじめています。外出中のマスク着用義務も解除されていて、2019年以前のような生活が戻りつつあります。そんな自由な状況にあっても流行の再拡大がないのは、ワクチンの効果であると言えそうです。

イギリスも段階的に経済活動を再開していますが、今のところ流行の再拡大はありません。ワクチンが普及し、接種率が上がれば、日常生活が取り戻される可能性は高いと言えるでしょう。

―先生が接種したワクチンについて教えてください 私は2021年1月と2月にモデルナ製のmRNAワクチンを接種しました。

オンラインで予約し、当日は職場内にある特設会場で接種しました。
会場に到着して受付を済ませたあとは、"ナースプラクティショナー"という看護師にその日の健康状態とアレルギーの有無をチェックしてもらい、左腕の「三角筋」という部分に筋肉注射で接種しました。特に痛みなどはなく、すぐに接種完了。15分間程度、強い副反応がないかなど観察してもらい、問題がなかったためそのまま終了しました。

―副反応は全くなかったのですか? 少しですがありました。1回目の接種翌日は、打った場所にやや強い筋肉痛のような痛みが出てきて2日間ほど続きました。
2回目の接種時は、接種後半日〜1日たって強い倦怠感や風邪の引きはじめのような症状がでましたが、それも接種2日後には回復し、普通の生活に戻れました。

接種した周囲の方に話を聞くと、私のような症状に加えて、頭痛や発熱があった方もいたようです。2回目の方が副反応は強く出る傾向があることは論文などでも明言されておりますので、1回目の接種で反応が強く出た方は、次回は休日前に打つなど、工夫が必要かもしれません。

―mRNAワクチンを接種すると分かった時どう感じましたか? 2020年の夏頃、まだ研究・開発段階だったmRNAワクチンが、1年後にここまで成功するとは全く思っていませんでした。技術としては確立していたので安全性の問題はあまりないだろうという感触はあったものの、ワクチンの有効性への期待と言った点について特に懐疑的でした。

しかし、その後にさまざまなデータが出てくると、有効性が驚くほど高いということが分かり、研究者としても驚きを隠せませんでした。安全性も当初想定のとおりほとんど問題がなかったため非常に良いワクチンであるという確信につながりました。

開発段階では不安がなかったとは言えないですが、実際に接種する段階ではむしろ少し楽しみだなというような感覚に変わってきた感じです。

―2021年4月時点で世界の10億人以上が接種しています。今の状況をどう思いますか? 「世界のワクチン接種状況」としては、驚くほど早く進んでいると思います。前述のとおり、ワクチン開発というのは、かなり長期間かかることが常識でした。それをわずか1年ちょっとで、世界で10億人以上が打つところまでいけたというのは科学の大きな進歩ですし、人類ががんばったと言える成果です。

もちろん、もっと早くパンデミックを収束させて、以前の生活を取り戻したいという皆さんの希望はよく分かりますし、私自身も早く戻ってほしいと思っていますが、現状でもワクチン接種は驚異的な速度で進んでいることを認識いただけると良いと思います。

世界はしっかり前進しているので、決して焦らず予防を継続して、ワクチンを普及させていくことに注力することが大切です。

―集団免疫のために日本が目指すゴールは? 「集団免疫が達成された状態」というのは、流行が起こったとしても実効再生産数(1人の感染者から何人に感染が広がるかの指標)が1を超えない、すなわち大きな流行に繋がらないという状態を指します。今回の場合には、国民の7割程度がワクチン接種できれば、集団免疫という状態を達成できると思います。

―集団免疫獲得までにどのような流れが予想できるでしょうか? ワクチン接種を進めることで、だんだんと流行が起こりにくくなっていきます。
現状はハイリスクな方から接種を進めていますので、重症化割合の減少が期待されます。
重症化する人が減れば、医療の負担も軽減しますから、適切な処置を無理なくできるようになります。医療崩壊などのリスクが減り、その後もワクチンの接種が続くことで実効再生産数も上がりにくくなって、やがて集団免疫に到達するという流れです。

ただし、ワクチンの力だけで流行を収めるのではなく、みなさんが日々の予防を徹底することはこれからも必要です。ワクチン接種と基本の予防策を続け、現状をこれ以上悪化させないように維持できれば、ワクチンの効果も相まって、いずれ完全収束できると考えています。

―日本を取り巻く現状について何を考えますか? 日本の現状について、実はそれほど深刻だとは思っていません。
欧米、特に米国や英国と比較すると、日本の死者数や新規感染者数はとても少ない状態でなんとか抑えられています。

もちろん日本よりもうまく抑え込んだ国はありますが、ここまでのコントロールは相対的にはうまくいっていると言って良いでしょう。現在第4波が来ているという状況ですが、これまで通り抑制できれば、決して大きすぎる波にはならないと言えそうです。

ワクチンの普及という観点でも、確かに接種が進んでいる国と比べるとペースが遅いように見えますが、世界にはまだまだワクチン接種が進んでいない国も多く、ペースは一律ではありません。

各国の対策への評価は、中間地点である現状ではなく、ワクチンを十分に接種した段階においてどれだけの犠牲者を出してしまったか、という視点で考えるべきです。

そう考えると、日本はここまで比較的うまくコントロールできていますし、これからもできると信じています。まだまだ諦めたり、やけっぱちになったりせず、粛々とワクチン接種と日々の予防を続けることが重要だと考えています。

制作協力
峰 宗太郎(病理専門医)
医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学。ワクチンの情報、医療リテラシー、トンデモ医学等の問題をまとめている。
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