ワクチン接種が先行するアメリカに見る、「アフターコロナ」へ向かう社会と新しい日常

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 制作協力:安部かすみ

新型コロナウイルスのパンデミックが起こって以来、多くの人が「当たり前の日常」を願い、感染対策や自粛生活を続けてきました。ワクチン接種がスタートし、ようやくその道筋が見えてきたものの、現時点でアフターコロナの世界を想像することは難しいのが実情です。

では、ワクチン接種が先行する欧米諸国では、日常の暮らしや経済活動はどれくらい戻ってきているのでしょうか? 例えばアメリカは現在も収束といえる状況ではなく、7月半ばからは全米での新規陽性者が増加傾向にあります。それでも、ワクチン接種が進んだことで、多くの人がアフターコロナに向かいつつある社会を実感できているようです。

そんな、アメリカの現状と、コロナ前後で変わったこと、変わらなかったことについてニューヨーク在住のジャーナリスト・安部かすみさんにお話を伺いました。

※本記事は7月26日までの情報をもとに構成しております。アメリカは新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大を受け、7月28日に一部地域で屋内におけるマスク着用再開の方針を示しています。(7月28日追記)

多くの人が「ノーマスクの日常」に

―アメリカではワクチン接種が先行しています。安部さんが住むニューヨーク州でも6月末の時点で18歳以上の7割が1回目の接種を終えたとの報道がありました。現在、ニューヨークの「日常」はどれくらい戻ってきているのでしょうか?

現在のニューヨークでは多くの人が最悪期を乗り越え、ある意味「アフターコロナ」を実感していると思います。行きたいところへ行き、会いたい人に会う。以前は当たり前だった自由を謳歌しています。友人と話していても、街ゆく人の様子を見ていても、そう感じますね。

―具体的に、アフターコロナを実感するエピソードを教えてください。

アメリカでは5月末のMemorial Day(戦没将兵追悼記念日)から感覚的に夏に入るのですが、今年は去年にはなかった光景が多く見られます。公園や自宅の裏庭でバーベキューをするグループをよく見かけますし、私自身も友人からパーティーに招かれる機会が増えました。

先日の独立記念日も友人たちと一緒にお祝いをしましたが、5月のパーティーに比べて倍くらい人数が増えていて、参加者全員がノーマスクでした。参加者同士で握手やハグをする様子を見て、コロナ以前の日常が戻ってきたことを実感しました。それから、独立記念日のパーティーは例年以上に「星条旗」が目立っていたように思います。テーブルクロスや紙のお皿、爪楊枝の旗まで、どこもかしこも星条旗だらけ。国難を乗り越えた喜びや一致団結の気持ちがそこに現れているように感じました。

―それはニューヨーク全体の気運なのでしょうか。それとも、同じ州内でも、都市部と郊外ではまた温度差がありますか?

都市部も郊外も、さほど違いはないと思います。私が暮らしているのはブルックリンの繁華街の近くで、マンハッタンからは地下鉄で10分くらいのエリアです。人通りもかなりありますが、マスクをして歩いているのは1〜2割程度ですね。一方、先ほどお話ししたパーティーはニューヨークの郊外で開かれましたが、そこでも特に神経質にはなっていないようでした。もちろん、ワクチン接種が進んでいるという安心感もあるのでしょうが、都市部でも郊外でも、コロナを気にしている人は少ないように感じます。

―日本でいう「新しい生活様式」のようなガイドラインなどはないのでしょうか?

全米ではCDC(疾病対策予防センター)のガイドライン、ニューヨーク州では「NYフォーワード」というガイドラインがあり、事細かな規制が設けられています。例えば、「公共交通機関ではマスクを着用すること」などで、地下鉄や空港、商業施設、図書館などではみんなマスクを着けています。ただ、私もそこで初めてコロナのことを思い出すくらいで、その他の場所ではそれほど神経質に意識することはなくなりました。

▲CDCではアメリカ国内のワクチン接種状況を毎日更新。7月25日時点では、18歳以上の60%が接種を完了している

商業施設に活気が戻り、旅行やショービジネスも復活

―では、経済活動の面はいかがでしょうか? 商業施設や旅行、ショービジネスなどは、どの程度まで再開できていますか?

商業施設は、客として見ている限りはどこも混雑していて、コロナ以前の活気が戻っているように感じます。6月にはニューヨークに世界最大の『ハリー・ポッター』の店や、Googleの世界初の常設店舗がオープンしたりして話題になっています。

ただ、やはり個人経営や小規模のお店は多大な影響を受けているようです。街を歩いていると、いまだにシャッターを下ろしたままのお店も少なくありません。潤沢な資本がある企業以外は、まだ少し様子を見ているところもあるのではないでしょうか。

▲ニューヨークでも多くの商業施設や飲食店が閉店を余儀なくされた(写真提供:安部かすみ)

旅行に関しては、かなり活発に動いていますね。アメリカ自動車協会によると、独立記念日の週末に国内移動をしたのは約4800万人とされています。去年はわずか200万人でしたが、コロナ前の水準にまで戻ってきています。私も6月に国際空港を利用しましたが、出発ロビーも普通に混雑していましたし、友人夫婦からもカリブ海やフロリダなどに旅行してきたという話をちらほら聞くようになりました。

―ショービジネスの現状はいかがでしょうか?

ブロードウェイは規模を縮小しつつもワクチン接種完了者を対象に復活していて、9月には100%のキャパもしくはそれに近い形で再開すると発表しています。また、THE RIDEというバスで街中を回る人気のショーがあるのですが、そちらは現在バスに乗車するのではなく座って見るショーとして再開しています。

▲2021年6月25日のタイムズスクエア。前日にニューヨーク州の非常事態が解除された(写真提供:安部かすみ)

それから、これは私のなかではアフターコロナを感じる象徴的な出来事だったのですが、CBSの深夜トーク番組「ザ・レイト・ショー」の公開生放送が、6月中旬から復活したんです。パンデミック以降はずっと司会のスティーブン・コルベアの自宅から放送していたのですが、先日の放送からスタジオにお客さんを入れていたのを見て、ようやく元に戻ったんだなと。今はワクチン接種完了者のみを観覧席に入れているようですが、毎日満席です。

大谷翔平選手が出場した先日のオールスターゲーム(デンバー)の球場も満席でしたね。誰もマスクをしていなかったのが印象的でした。

―ワクチン接種率が上がるにつれて、人々が自由を取り戻しつつあることはわかりましたが、アメリカでもワクチン接種に積極的ではない層が一定数いると思います。今はややワクチン接種が停滞しているというところでしょうか?

停滞ではなく「微増」というところです。ただ、ある程度のところで接種率が行き詰まってしまうのは、致し方ないのではないかと思います。

例えば、アメリカでは26歳以下の接種率が低いです。若者は重症化しにくいというデータもありますし、周囲に高齢の家族や知人がいなければ接種会場に足を運ぶ動機を見出せないのかもしれません。それに、共和党寄りの州にワクチン接種を拒否する人が多かったり、アンチワクチンムーブメントのようなデモも行われていたりします。

こうしたことは、これから接種が進む他の国でも起こりうることです。アメリカに限らず、90%、100%の接種率というのはそう簡単ではないでしょう。

▲飲食店にも客足が戻った。アクリル板などもなく、マスクなしで利用できる(写真提供:安部かすみ)

パンデミック以前の価値観とニューノーマルが融合した、新しい日常

―この1年、私たちの暮らしや働き方、さらには趣味や遊びなど、あらゆる分野において様々なニューノーマルが誕生しました。そのなかでアフターコロナになっても定着しそうな「良い変化」があれば教えていただきたいです。

わかりやすいところでいえば、飲食店から「紙のメニュー」が消えました。毎日メニューが変わる高級店などは別ですが、人々が日頃から利用するようなお店のほとんどはノート型のメニューをなくし、QRコードなどでメニューを表示するシステムに切り替わっています。先日、たまたまスマートフォンのバッテリーが切れていたので紙のメニューをくださいとお願いしたら、「もう全て廃棄してしまったよ」と言われました。

ずいぶん極端な気もしますが、新たな試みを感じましたね。ただ、それだけアメリカの人々の衛生意識も変化したのだと思います。

▲多くの店がメニューブックを廃止し、二次元コードでメニューを見て注文するのが常識に(写真提供:安部かすみ)

また飲食店の変化という点では、パンデミック以前は歩道や車道だったスペースにまでテーブルや椅子を置くことが許され、屋外で食事を楽しむ人が増えました。それは「オープンストリート」という名前で現在も定着していて、しばらく続けられるようです。

―オンライン化という点ではいかがでしょうか。リモートワークやオンライン授業などは、人に直接会えるようになった今でも定着していますか?

Work From Home(在宅勤務)は今も定着しています。また図書館の本も電子書籍で読めますし、お稽古やフォーラム、セミナーなどにもオンラインで気軽に参加できるようになりました。

これらに比べると、公立校では割と早い段階で対面授業が再開しましたが、そこはどちらかというと子供たちのメンタルを考慮しての判断だったようです。

▲人のいないオフィス。今も在宅勤務を継続する企業が多く、完全在宅の新しいワークスタイルは少なくとも秋ごろまで続くと見られている(写真提供:安部かすみ)

―オンラインとリアルを、ちょうど良いバランスで併用できているというところでしょうか?

そうですね。それぞれの特性に合わせ、使い分けができていると感じます。先日、音楽(琴、ドラム)の講師の方にお話を伺ったのですが、コロナでオンライン授業を始めてから、ニューヨークだけでなく全米中、世界中に生徒が増えたとおっしゃっていました。またコーチングをしている友人も、今や世界各地にクライアントがいます。私自身も、ロンドンの大学院の教授にZoomでインタビューをしたり、オリンピックのサミットにオンラインで参加したりと、これまでには考えられなかった広がりができています。

―物理的な移動が制限されたことで、かえって世界が広がったと。

はい。その一方で、外で体を動かしたり、どこかへ足を運んだりすることの大切さも実感しています。ニューヨークでは去年の春から自転車ブームなんです。コロナで地下鉄を避ける人が、一斉に自転車に乗り始めたんです。私も、家の隅っこで埃をかぶっていた自転車を引っ張り出しました(笑)。久しぶりに乗ってみたら風が気持ち良くて、それから習慣になっています。

他にも、BLUE NOTEのライブや美術、ダンスなど、昨年はさまざまな文化がバーチャルで体験できるようになりましたが、やはり実際の会場でのフィジカルな体験に勝るものはないと分かりました。ニューノーマルだけではなく、以前からあったものの価値に気づき、今まさにその素晴らしさを心から実感している。それが、アメリカの現状ではないかと思います。

―いわば、パンデミック以前の価値観とニューノーマルが融合した、新しい日常というところでしょうか。日本でもアフターコロナになって、それを実感できる日が来ることを多くの人が心待ちにしています。

私自身、昨年はZoomの画面越しにしか話せなかった親友らと再会しハグをした瞬間に、大きな喜びを感じました。もちろん、1つの大きな峠を乗り越えたとはいえ、今も新規陽性者は多く、7月半ばから全米で感染者が増加傾向にあります。

せっかくワクチンを接種することで再び自由を手に入れたわけですから、今後も感染予防を十分しながら、ニューノーマルにアジャストしながら、新たな価値観で過ごせていけたらと思っています。

制作協力
安部かすみ(あべ かすみ)
ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者。雑誌出版社で編集者&メジャーミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、02年活動拠点をNYに移す。NYの出版社に勤務し、シニアエディターとして街ネタや環境問題を取材。現在はライフスタイル、働き方、社会問題、グルメ、文化、テック&スタートアップの最新情報を発信、CROSS FMに毎月出演中。著書:NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ(イカロス出版)。所属団体:在外ジャーナリスト協会Global Press、米国務省NY外国記者センター︎NY Foreign Press Center。
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※取材はオンラインで実施しました

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