いつ収束? 第6波は? 現在のワクチン接種ペースから紐解く、新型コロナウイルス収束シミュレーション

 

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 制作協力:倉橋節也(筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授)

7月12日、東京に4回目の緊急事態宣言が発出されました。7月31日には都内の1日の新規陽性者数が過去最高の4000人を超え、終わりの見えない状況に多くの人が不安を抱えています。

収束に向け、鍵を握るのはやはりワクチン。現在、全体の約3割が2回接種を完了していますが(8月3日時点)、このままのペースでワクチン接種が進んだ場合、新規陽性者や重症者の数はどのように推移していくのでしょうか?

内閣官房のシミュレーションプロジェクトで感染予防に取り組んできた、筑波大学の倉橋節也教授に伺いました。

9月初旬の東京で新規陽性患者数1日1万人超えも

―7月28日に東京都の1日の新規陽性者数が初めて3000人を超え、その後も増え続けています。この先、新規陽性者数や重症者数はどのように推移していくでしょうか?

まず、4回目の緊急事態宣言が発出される前に行ったシミュレーションでは、仮に6月6日に都内市中でデルタ株感染者が10名存在していた場合、東京オリンピックを無観客で開催したとしても8月末には東京都で1日4790人程度の新規陽性者が発生し、重症者は152人にのぼると推定していました。

▲アルファ株とデルタ株の市中感染が続くなか、オリンピックを無観客で開催。緊急事態宣言などの対策をとらない場合のシミュレーション ※赤:新規陽性者総数(15歳以上)、緑:15歳〜39歳、青:40歳〜64歳、紫:65歳〜 濃紫波線:重症者数

ただ、あれからまた状況は大きく変わっています。そこで8月3日に、最新のシミュレーションを発表しました。
現在の第4次緊急事態宣言相当の効果が継続した場合でも、9月初旬に東京都の新規陽性患者は1日あたり1万人(週平均)を超え、最大で760名程度の重症入院患者が発生するおそれがあります。

▲デルタ株による新規陽性患者数のシナリオ分析。現在の第4次緊急事態宣言相当の効果とワクチン接種の速度をふまえたシミュレーション

―実際には7月31日に、東京の新規陽性者の数は4058人に上り、最多を更新しました。そこから、さらに倍以上に増加する可能性があると......。ワクチン接種が十分に進んでいない状況とはいえ、この数字には驚かされます。

感染力が強いとされるデルタ株が広がる状況下ですから、多くの人がワクチンを打つことは大前提です。ただ、それだけに頼っていても新規陽性者はどんどん増えていく可能性が高いです。ワクチンが十分に行き渡るまでの間、感染拡大を抑え込むには別の対策を強化することが必要になります。

―ただ、緊急事態宣言も、回数を重ねるごとに効果が薄れているように感じます。飲食店などを窮地に追い込むだけで、果たして意味があるのかと感じている人も少なくありません。

さまざまな数字を見ても、1回目の緊急事態宣言に比べて効果が薄れてきているのは事実です。2回目の宣言は1月7日から3月21日まででしたが、いったんは感染者数が減ったものの、2月末からは再び増加に転じました。また、現在の第4次緊急事態宣言の効果は少なくなっているのも事実です。

ただ、それでもまったく無意味ということはありません。3回目は2回目よりも強度の高い対策が行われたため、感染拡大のスピードは鈍化しています。ですから、今後も緊急事態宣言という形をとるかどうかは別として、手を替え品を替え、ワクチン接種と並行して何らかの対策をとらざるを得ないのではないかと思います。

もちろん単に自粛や休業要請などの強度を高めるばかりでなく、政府にはその時々の状況に応じた適切な対策と、丁寧なメッセージの発信を求めたいところです。当然、休業を要請する飲食店などには十分な補償も必要です。

ワクチンの接種計画次第で感染の山を大きく減らせる可能性も

―前述のシミュレーションでは、今後、ワクチンの接種はどの程度進むと想定されているのでしょうか?

1日100万回分、国民の1%が打てることを前提としています。このままのペースで進めば、希望者全員が2回目の接種を終えるのは11月末くらいになる計算ですね。ワクチン接種率の上昇とともにゆるやかに新規陽性者と重症者が減少していき、来年の春にかけて収束していくと現時点では推定しています。

―少し前に、国からのワクチン供給が追いついていないという報道もありました。実際に、自治体へのワクチン供給の調整で、接種券が届いてもなかなか予約ができないという声もあがっています。もし、再び大きく供給が滞ることがあれば、収束のシミュレーションも変わってしまいますよね。

もちろん、今後しばらく国民のほとんどがワクチンを打てないような状況になれば、秋ごろに再び新規陽性者数は跳ね上がり、それこそ緊急事態宣言を1か月から2か月おきに繰り返すことになってしまうかもしれません。ただ、一時的にワクチンの供給量が減ったとはいえ、年内までに必要十分な量は確保されていると思いますので、そこまで悲観的に考える必要はないでしょう。

―いずれにせよ、収束の要はやはりワクチンです。国民の大部分が2回目の接種を終えるまでは、なるべく感染を拡大しないように努めていくしかないのでしょうか。

そうですね。少なくとも今は感染が拡大している20代や30代がほとんどワクチンを打っていない状態なので、夏から秋にかけて新規陽性者がある程度まで出てくるのは致し方ないところかと思います。

ですから、今後は年齢に関係なく打てる人から接種したり、若い人が優先的に接種できたりする方法を採り入れていってもいいのかもしれません。アクティブな20代や30代の接種率が上がることで、新規陽性者数のグラフの山が減っていく可能性は十分に考えられます。

―政府に対し、そうした提言は行っているのでしょうか?

私たちに限らず、さまざまな研究者がデータを出していますので、それらを政府側で総合的に判断していると思います。私は今年の4月にも当時の国のワクチン接種計画をふまえたシミュレーションを行い、高齢者だけでなく全体の2〜3割だけでも64歳以下の接種を進めることで、重症者数を増やさず新規陽性者数を大幅に減らせるというデータを内閣官房に報告しました。それが首相官邸に上がり、職域接種や大規模接種会場での64歳以下への接種計画につながる要因のひとつになったと聞いています。

少しでも良い未来を想像し、一人ひとりが行動を変えることが大事

―今後、新たなリスクが出てくる可能性もありますが、現時点のシミュレーションではこのままワクチンの接種が進めば来春には収束の可能性があると。先の見えない不安を多くの人が抱えているなか、こうした見通しを示すことはせめてもの救いになるかもしれません。

とはいえ、収束を正確に予測することは現実的に不可能だと思っています。社会は複雑なものですし、特に感染症は人の動きによっていかようにも変わっていく。「必ずこうなる」といった決定的なシミュレーションではないのです。

ただ、こうしたシミュレーションを出すことで人々がどう行動するか、一人ひとりに考えてもらえるきっかけにはなるのではないかと思います。ですから、私たちは楽観的な予測だけではなく、あらゆる状況を想定した複数のシミュレーションを行っています。

ワクチンを打つ年代の順番を変えるとどうなるか、緊急事態宣言の強度を変えるとどうなるのか。いくつかのシナリオを定義し、それぞれ結果を見ていただく。そこで、「こんなふうに行動すると、少し良くなるんだな」と、みなさんの行動変容につながる材料になることを願っています。

<シミュレーションの詳細>
7/12緊急事態宣言の効果 陽性患者、重症者、入院者推定(2021.8.3)

制作協力
倉橋節也(くらはしせつや)
筑波大学大学院ビジネス科学研究群教授。計測・制御システム関連の民間企業に勤務しながら大学で学び、その後教員へ。筑波大学大学院ビジネス科学研究科助教授、同准教授、University of Groningen(オランダ)、University of Surrey(英国)客員研究員などを経て現職。研究分野は人工知能・システム技術の社会・経営応用。知能情報学・経営情報学・社会経営シミュレーション・感染症モデル・社会ネットワーク・シリアスゲームなど
※取材はオンラインで実施しました

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