【深掘りまとめ】ワクチン審査承認までの透明性は?「若者は重症化しにくい」はホント? 働く世代が知っておきたい「ワクチン」「副反応」のことを、さらに踏み込んで解説

取材・文:榎並紀行、末吉陽子(やじろべえ) 制作協力:Medstar Washington Hospital Center米国内科専門医・感染症専門医 安川康介医師

若者世代にも広がりはじめた新型コロナウイルスワクチンの接種。若いほど副反応が出やすいという報道もあり、不安を感じている人も少なくないでしょう。前回の記事では、若者への接種が先行する米国に住む安川康介医師(感染症専門医)に、20代から40代の人たちが知っておきたい、ワクチンや副反応のことについて解説してもらいました。
今回はそこから一歩踏み込んで、「ワクチン審査の透明性」や「ワクチン接種と死亡例との因果関係」など、さらに深掘りした内容について質問。また「重症化しにくい」などともいわれている若い人がワクチンを接種する意味についても、あらためて伺いました。
※2021年8月4日段階の情報をもとに作成しています。

「ワクチン接種」や「副反応」への不安を深掘り

―前回、ワクチン接種に対する不安についてお答えいただきましたが、「そもそも製薬会社が都合の悪いことを隠していないか不安です」といった声もあります。審査などの透明性は、担保されているのでしょうか?
今回、ファイザーもモデルナもワクチンの審査の過程をYouTubeライブで配信するなど、透明性を重視していたと思います。審査自体も製薬会社の中の人ではなく、独立した委員会で行われています。審査資料も公開されていましたし、どんなデータが不足しているのか懸念材料はなんなのか、誰が審査に参加して誰が承認に関わったのかなど、オープンにした状態で検証されています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)が行うワクチンの副反応についての会議でも、ワクチンに反対する方や団体が発言する機会がありました。多くの方が注目しているワクチンだからこそ、過去にない透明性を持った審査によって認可されているという事実は、ワクチンへの信頼につながるのではないでしょうか。

<参考>(外部サイト)
FDA - COVID-19 Update: FDA's Ongoing Commitment to Transparency for COVID-19 EUAs

―8月上旬時点で国内のワクチン接種率は約3割に留まっています。そもそも欧米諸国に比べて、なぜ日本のワクチン供給は出遅れてしまったのでしょうか?

いろいろな理由があると思います。日本では薬事承認されるまでに、有効性と安全性に関して厳格な評価が行われます。今回のファイザーとモデルナのワクチンも、それぞれ本国で4万4千人と3万人の臨床試験が行われていますが、日本国内でも日本人を対象に第1/2相試験があらためて実施されました。そのうえで、有効性と安全性が確認されたのちに特例承認を受けた経緯があります。

すでにアメリカなどで臨床試験が行われデータがあるものに対し、日本国内であらためて第1相から試験を実施する必要があったかについては、医師の間でも意見が分かれるところでしょう。ただ日本は社会的にワクチンに対する警戒心が高いということもあり、厚生労働省としても慎重に、丁寧なプロセスを踏んだのだと思います。

<参考>(外部サイト)
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A

さらに、日本でのワクチンの開発環境も海外ほど整っていなかったことも考えられます。世界中で需要が高いファイザー社やモデルナ社のワクチンの供給に頼らざるを得なかったこともあるでしょう。ただ最近は日本での1日あたりのワクチン接種回数は多く、ワクチン接種率も上がってきています。

―ワクチン接種後に「重篤な症状が出た」「死亡した」というような報道を目にします。こうした有害事象とワクチン副反応との因果関係は、どこまで検証できているのでしょうか?

ワクチン接種後に死亡、という報道をみると、やはり不安になってしまうと思います。ただワクチン接種の後に起きたことが、必ずしもワクチンによって引き起こされたことではない、ということを理解することが重要です。ワクチン接種にかかわらず、常に病気や死亡というのは生じています。たまたまワクチン接種の後にそうした病気や死亡が起きたら、ワクチンのせいではないかと思ってしまいますが、そこは科学的な検証が必要です(※)。

※ワクチンを受けた後に起きたあらゆる好ましくない症状や病気を「有害事象」といいます。このなかで、本当にワクチンによって起きた因果関係のあるものを「副反応」といいます。

<参考>(外部サイト)
厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A

アメリカにはワクチンを受けたあとに何か悪いこと(有害事象)が起きたら報告できるシステム「VAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System)」(外部サイト)があります。これは日本の副反応疑い報告制度に近い仕組みです。VAERSは単に報告だけして終わりではなく、重い有害事象が報告された時に、特定の疾患に関しては自然発生と比較する仕組みも存在しています。

ただし、ワクチンを受けている方の年齢や基礎疾患はさまざまですので、「VAERS」だけではかなり粗い評価になってしまいます。そこでアメリカではもっと詳しく検証するために「VSD(Vaccine Safety Datalink)」というシステムを活用しています。これはCDCと民間病院の共同プロジェクトで、「ワクチンを接種した人」と「していない人」を比較できるというもの。このシステムに登録されたデータをもとに、心筋梗塞や脳出血、血栓などの病気が、ワクチンを受けていない人に比べて、ワクチンを受けた人でより多く起こっていないか、1週間ごとにリアルタイムで調査しています。

<参考>(外部サイト)
厚生労働省「米国の予防接種安全性監視システムについて」

なおアメリカでは副反応に関してはCDCの組織であるACIP(予防接種諮問委員会)などが定期的にデータを公表していますが、その際にはこのVSDのデータを用い、厳密な評価がなされています。現時点において、米国で使用されているmRNAワクチン(日本と同じモデルナ社とファイザー社のmRNAワクチン)に関し、CDCは明らかにワクチンによって引き起こされた死亡例はないと公表しています。ただしmRNAワクチンはこうした制度により、まれにアナフィラキシーを起こすことがあることがわかっているため、素早く対応できるようにワクチン接種後に15~30分の待機時間が設けられています。また日本では使用されていないジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンや、承認されているものの現時点(8月3日)で使用されていないアストラゼネカ社のワクチンでは、非常にまれに血小板減少を伴う特殊な血栓症が起こることも、米国や欧州の安全性の監視システムから分かっています。

<参考>(外部サイト)
CDC - Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination
note - 【特別編】副反応と有害事象、日本とアメリカの報告制度の違いについて(5月17日こびナビTwitterspacesまとめ)

「若い人は重症化しにくい」に潜む誤解

―アメリカでは18歳以上の約6割がワクチン接種を完了しています。ワクチン接種者と非接種者で、感染率や死亡率に違いはあるのでしょうか?

アメリカでは現在も多くの新規陽性者が出ていますが、そのほとんどがワクチンを受けていない人です。AP通信が5月のデータを元に行った独自調査では、コロナによる10万7000人以上の入院患者のうち、ワクチン接種が完了した人の感染率は約1.1%でした。また5月にコロナで亡くなられた1万8000人のうち、ワクチン接種完了者は約150人。1日あたり平均で約0.8%です。CDCのワレンスキー所長は、7月1日に過去6か月間に米国で新型コロナウイルス感染によって亡くなった方の99.5%がワクチン未接種者であったことを報告しました。

<参考>(外部サイト)
Press Briefing by White House COVID-⁠19 Response Team and Public Health Officials

また私自身も、病院でコロナの感染者の方を診ることがほとんどなくなっています。ここ1〜2か月ほどの間に入院されるのは、ほとんどがワクチンを接種していない方です。

<参考>(外部サイト)
AP通信 - Nearly all COVID deaths in US are now among unvaccinated

―それでもワクチン接種を拒否する人は一定数いるのでしょうか?

アメリカでは、ワクチン接種を受けたくないという人は2割程度いるといわれています。そのほかに、ワクチンに反対しているわけではないが「面倒だから受けたくない」「なんとなく受けたくない」「そもそも無関心」という人も多いように感じます。そのため、駅で気軽に受けられるようにしたり、接種者にさまざまなインセンティブを出したりと、いろいろなことをやっていますが、現在はやや苦戦している状況もあります。実際、一時期は1日400万人が接種していましたが、現在は100万人以下に下がってしまいました。日本でもある程度まで接種率が高まれば、おそらく同じことが起こるのではないかと思います。そのため、若い人が抱く不安や疑問に丁寧に答え、粘り強く接種を呼びかけていくことが大事なのではないでしょうか。

―そもそも若い人は重症化しにくいといわれています。それもワクチン接種に積極的になれない要因の一つかと思いますが、実際のところはどうなのでしょうか?

例えば「コロナは風邪」という人がいます。新型コロナウイルスはよく肺炎を起こします。定義上、風邪は鼻や喉の炎症なので、下気道である肺に影響がある時点で風邪ではありません。

また「若い人(20代〜40代)はコロナに感染しても重症化しないのでワクチンは必要ない」という意見もよく耳にします。しかし、一般の人と実際の医療現場で医師が見る「軽症・中等症・重症」には差があります。実際、私はアメリカで多くのコロナ患者を診てきましたが、軽症や中等症でもかなり辛い症状に苦しむ人も少なくありませんでした。
例えば定義上、発熱し下痢や咳が止まらず、嗅覚を失ったとしても「軽症」扱いになります。風邪症状で済む人はたしかにいますが、「軽症」でも辛い思いをされる方はいます。

中等症IIでは酸素投与が必要になります。ここまでくると相当つらい経験になるでしょう。若い人は中等症にもならない、と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際の医療現場では多くの20代〜40代の方が酸素投与を必要とする中等症で入院していました。例えば大分県の調査では、3月21日から5月19日までに感染した1711人のうち40代と50代の10人に1人、30代では25人に1人が中等症II以上まで悪化していたことが分かっています。

このように、若い人でもそれなりの頻度で中等症になっています。なので自分をこうした感染症から守るためにも意義があります。また若年層の感染が増えると、医療現場で上記対応が増え、病床ひっ迫にもつながってしまいます。そのため、若い人の軽症・中等症をワクチンで抑えられるだけでも、非常に効果があるといえるでしょう。

制作協力
安川 康介(やすかわ こうすけ)
ワシントンD.C. MedStar Washington Hospital Center ホスピタリスト。2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修を終了後、渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。 ※取材はオンラインで実施しました

関連リンク
新型コロナウイルス感染症まとめ -Yahoo!ニュース

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