【専門家の徹底解説】ワクチン接種の効果や新たな変異ウイルスへの有効性まで、不安・疑問を解消

 

取材・文:末吉陽子(やじろべえ) 制作協力:米国国立研究機関博士研究員 峰宗太郎医師<病理専門医、薬剤師、博士(医学)>

日本のワクチン接種が急速に進むなか、その効果の持続性にまつわる研究結果が明らかになったり、変異ウイルスのまん延に歯止めが効かなかったりと、何かと気になる話題ばかり。そこで、ヤフーで特に検索されている「ワクチンの不安・疑問」を選別。米国国立研究機関に所属するウイルス免疫学の専門家・峰宗太郎先生に詳しく教えていただきました。
※2021年9月2日段階の情報をもとに作成しています。

ワクチンは「感染・発症・重症感染」それぞれに効果がある

―ワクチンの接種には、どのような効果があるのでしょうか? いくつかの研究によると、mRNAワクチン(ファイザー製/モデルナ製)の2回接種から2週間経ったときの感染予防効果と発症予防効果は90%以上、重症感染(※)予防効果にいたっては97%以上です。ただ、デルタ変異ウイルスについては、ワクチンの効き目が最もよい状態でも10%程度は下がるという論文が出ています。

(※)重症感染とは、入院が必要なほど重篤な感染状態のこと。当記事では、より正確を期すため「重症化」ではなく「重症感染」で統一している。

―その効果は、いつまで持続するのでしょうか? 残念ながらワクチンは接種以降、効果が徐々に落ちてきます。主な理由としては、ウイルスに対抗する抗体の量(抗体価)が減っていくからです。じゃあいつまで効果があるのか。それにお答えする前に、まずワクチンの感染予防効果・発症予防効果・重症感染予防効果の3つの違いについて、次の図をご確認ください。

―ひと言で「ワクチンの効果」といっても、感染・発症・重症感染それぞれに対する効果があるということですよね。 その通りです。時間の経過とともに、最も下がってくるのは感染予防効果です。ファイザー製ワクチンでは、予防効果は8ヵ月経つと60%くらいまで下がるという報告があります。おそらくモデルナ製でも同程度ではないかと思われます。では、発症予防効果と重症感染予防効果についてはどうかというと、いくつかの研究の結果、半年経っても90%近くの予防効果を維持しています。ただし、これもデルタ変異ウイルスに対しては、もっと下がることが予想されます。

―日本では、3回目の追加接種(ブースター接種)に向けて、国が手続きに動き出しています。やはり2回目接種の2週間後から数えて、半年後くらいにはブースター接種を実施したほうがいいのでしょうか。

これは「感染・発症・重症感染のどれを予防したいのか」によります。もし感染をしっかり予防したいというのであれば、接種から半年後くらいを目安にブースター接種をしたほうがいいでしょう。ただ、発症や重症感染を予防したいのであれば、8ヵ月経っても90%を超える予防効果があるわけですから、ブースター接種は急がなくてもいいでしょう。

―ワクチンを接種した人の中には、「自分は十分な抗体量を保有できているのだろうか」と気になっている人もいるかもしれません。 分かっていることは、2回目のワクチン接種を済ませた人のうち、おおむね95~99%以上の人にはしっかり抗体がつくということ。つまり、抗体がついてない人は圧倒的に少ないということです。抗体がつきにくい人の特徴は、高齢者、免疫不全などの基礎疾患がある、がんの治療中、免疫抑制剤を使っている方などです。該当しない人は、基本的にまずは抗体がついていると考えて良いでしょう。

ただ、そうは言っても、ワクチン接種完了後に感染してしまう「ブレイクスルー感染」の可能性もゼロではありません。そもそも「抗体量がこれくらいあれば絶対に感染しない」ということはありません。米疾病対策センター(CDC)の集計(※1)によると、米ロサンゼルス郡で5月から7月25日までに確認された新型コロナウイルス感染者の25%は、ブレイクスルー感染だったことが明らかになりました。

<参考>(外部サイト)
※1 米でコロナワクチン接種完了後の「ブレークスルー感染」増加=CDC - ロイター

―ワクチンは万能ではない、ということですよね。 デルタ変異ウイルスは伝播性(感染のしやすさ)が強いですし、接種から時間が経つと抗体価は低下します。ワクチン頼みではなく、これまで通りの感染対策も継続していただく必要がありますね。

ウイルスの変異には限界がある。ワクチンはラムダにも効くはず

―ワクチンの接種率は高まっていますが、感染の流行が収まる様子はありません。どんな理由が挙げられますか? 理由はひとつ、「人と人との接触が増えすぎているから」です。全国民のワクチン接種率が80~90%以上になれば、感染の流行は収まりやすくなるでしょう。しかし、現在のところ1回目の接種率は50%ほどです。この状況では、流行の縮小に対するワクチンの効果は十分に発揮できません。

―感染者数の増加と同時に、20代~65歳未満の重症者数は増加傾向にあります。これまで若い世代は重症感染しにくいと言われてきましたが、この事態はどう解釈すれば良いのでしょうか?

第一の理由は、感染者数の増加です。重症者数は感染者数の増加に比例して増えるので、たくさんの人が感染したら、たくさんの重症者が出ます。もしワクチンがなかったら、いま日本では高齢者の重症者数がもっと増えていたでしょう。

第二の理由として、デルタ変異ウイルスの影響が考えられます。デルタは従来のウイルスと比較すると、病毒性が強いのではないかという報告が増えてきています。いずれにしても、重症感染するかしないかはある意味で「運」のようなものです。ロナプリーブ(抗体カクテル療法)などの治療薬で重症感染を一定程度抑えられることが分かってきたものの、重症感染を完全に防ぐ治療はありません。

―国内では、「ラムダ変異ウイルス」「ミュー変異ウイルス」の感染者が確認されました。現在のワクチンはそれらに対する有効性はあるのでしょうか?

試験管内の実験では、ラムダへの有効性が示されましたので、ワクチンの効果は期待できます。ただし、あくまでも試験管内の結果を見ているだけに過ぎませんから、実際にヒトへ感染しようとしたときに、ワクチンの効果がどれくらいあるのかは、まだ分かりません。ミューについては、まだまったく分かりませんね。

―また、今後もこうした変異が誕生し続けた場合、現在のワクチンで対抗できるのでしょうか?

正確なデータはありませんが、個人的には対抗できると思っています。なぜならウイルスの変異の程度にも限界があるからです。今回の変異の重要な部分は、ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要となるスパイクタンパク質の一部が変化することです。このスパイクタンパク質の形があまりにも変わりすぎると、ウイルスが細胞の表面にくっつかなくなってしまい感染できなくなってしまうので、大きすぎる変異はできません。

また、ワクチン接種によって体内にできる抗体は、一種類だけではなく何種類もあり、それぞれがウイルスにくっついて、その機能を阻害(中和)させます。もしウイルス全体がガラリと変化すれば、まったく効かなくなりますが、そうした変化は考えにくいです。

ワクチン接種だけではなく今後も基本的な感染対策が重要

―国や自治体は、人と人との接触を減らすために、緊急事態宣言の発令などで人流抑制に注力しています。これは有効とみていいでしょうか?

人流抑制に効果がないとはいいません。ただ、考え方として、人流の増加そのものが問題なのではなく、「流れていった先でしていること」が何よりも問題です。各自治体が発表している感染事例を見ると、多くは「飲食、会食、冠婚葬祭、パーティー、バーベキュー、カラオケ」などの「接触」がある状況です。感染対策が緩みきっている面がありますから、感染拡大は必然だといえるでしょう。

―「ワクチンは打たず、治療薬ができるのを待つ」という人もいるようです。発症後に「治療」するのではなく、ワクチンで「予防」しておくことの重要性について、あらためてお聞かせいただけますか?

ウイルスの感染は、たとえると火事のようなものです。火がついてしまったら、もしかしたら「ぼや」で収まるかもしれませんが、延焼して家がまるごと焼けてしまう可能性もあります。一番大事なのは、そもそもの火事を防ぐ、つまり火の元に用心することですよね。

これを新型コロナウイルスに置き換えると、「火の元に用心すること=人と人との接触を極力避けること、外出時はマスクを着用すること、手洗い・うがいをすること、ワクチンを接種すること」です。

いくら治療薬を使ったとしても、発症してしまったら対症療法でしかありません。症状がおさまったとしても、肺や呼吸器に後遺症が残ることもあります。血管が損傷する人、嗅覚や味覚障害が長く続く人、毛が抜ける人もいます。

―それだけ被害が大きくて、元通りにならない可能性もあるということですね。

その通りです。治療薬を期待している人は多いと思いますが、そもそも人類はコロナのような急性ウイルス感染症の「特効薬」を作り出していません。インフルエンザ薬はありますが、あれも熱が出る時間がちょっと短くなるくらいのレベルでしか効いていないことが多いと思われます。

投薬した瞬間にウイルスの増殖がぱったりと止まったり、人工呼吸器を即、外して自力で呼吸ができるようになったりというような効果のある治療薬は、すぐに作れるものではありません。というか、風邪でさえ対症療法だけで、根本的には制御できていないですからね。

新型コロナウイルス感染による炎症を抑制する薬として、デキサメタゾンやアクテムラなどが使われていますが、これは火事の延焼を防ごうとしているのと同じようなもの。火が消える場合もあるかもしれませんが、基本的には燃えていくわけです。

感染してしまったら、あとは負け戦です。現在の医療では、負けをどこまで大きな負けにしないか、だけしかできません。つまり「予防に勝る治療なし」ということ。ワクチン接種だけではなく、「三密に近づかない」「マスクをつける」など基本の予防策を忘れずに、感染から自分自身を守ってもらいたいのです。

制作協力
峰 宗太郎(病理専門医)
医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学。ワクチンの情報、医療リテラシー、トンデモ医学等の問題をまとめている。
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