【専門家の徹底解説】ワクチン先行国・アメリカの接種状況は?ブレイクスルー感染や正しい情報の見極め方まで、不安・疑問を解消

 

取材・文:末吉陽子(やじろべえ) 制作協力:米国国立研究機関博士研究員 峰宗太郎医師<病理専門医、薬剤師、博士(医学)>

ワクチン接種が先行するアメリカなどの国でもブレイクスルー感染が相次ぎ、ワクチン接種義務化の動きも見られます。米国国立研究機関に所属するウイルス免疫学の専門家・峰宗太郎先生にアメリカの状況を伺いながら、いま考えるべき感染対策のこと、正しい情報を見極める方法などを聞きました。
※2021年9月9日段階の情報をもとに作成しています。

ワクチン接種先行国のアメリカでもブレイクスルー感染増加。ワクチンの効果は?

―日本よりもワクチン接種が先行している国は、いまどのような状況なのでしょうか? アメリカ、イギリス、イスラエルはワクチン接種率が上がったことから、一時期マスク着用をやめる方向に舵を切るなど、基本的な感染対策を大幅に緩和、中断する政策をとりました。しかしデルタ変異ウイルスの流行もあり、感染が再拡大しています。またワクチン接種後に感染するブレイクスルー感染も比率としてはまれではあるものの増えていて、7月にアメリカのマサチューセッツ州で発生したクラスターでは、感染者の4分の3がワクチン接種済みだったとの調査結果も出ました。
とはいえ、ワクチンの効果が期待できないということではありません。現在は接種済みの人の方が圧倒的に多くなっているため、ブレイクスルー感染が目立つようになってきています。しかし未接種の人よりも接種済みの人の方が、遥かに感染リスクが低いことには変わりありません。

―アメリカのスポーツ中継などを観ると、観客はほぼノーマスクですよね。日本とは、かなり温度差があるように感じます。
▲ボルチモアの球場(撮影者:峰宗太郎 撮影日:2021年8月24日)

アメリカではワクチン接種率が60%に近づいた頃に、マスクを外してもよい条件などを公的機関であるCDCや国が推奨しました。それによって一気に個々の感染対策が緩みはじめました。結果としては、感染の再拡大にも影響した可能性があります。感染の再拡大が進むと、今度はマスク義務化の動きが出てきたり、9月からは3回目接種(ブースター接種)を開始することにしたりと、感染対策を厳しくする方向への変更を余儀なくされました。日本は同じ轍を踏まないよう、ワクチン接種を進めてもらいつつも引き続き基本感染対策に注力してほしいと思います。

―マスクの義務化やブースター接種のほかに、アメリカはどのような対策を講じているのでしょうか。 たとえば、ワクチン接種の義務化の動きもみられます。ニューヨーク州の地方公務員や連邦政府職員の一部、病院職員などでは義務化がスタートしており、米軍も義務化の方向で調整中です。

―日本でも接種証明やワクチンパスポートの活用の動きが検討されていますが、医療観点での意義について、峰先生のご意見を伺えますか? 国をまたいだ移動や、大規模のイベントにおけるクラスター発生のリスクを防ぐという意味では、明らかに意義があるといえますね。移動やイベントと感染拡大は常に隣り合わせですが、ワクチンを接種しているという証明ができれば、そのリスクはかなり抑えられます。旅行やイベントなどに安心して行けるようにするためにも、ワクチンパスポートは非常に有効ではないでしょうか。ニューヨーク市ではイベントや飲食店でもパスポートが導入されて、移動や行動の安全安心につながっているようです。


優先すべきは「1回目を接種していない人にいち早く接種すること」

―日本ではアストラゼネカ製のワクチン接種も開始されました。1回目はウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ製)、2回目はmRNAワクチン(ファイザー製、モデルナ製)というように、設計が異なるワクチンを接種する「交差接種」を採用するか否かの議論も進んでいます。有効性や安全性はどう考えればいいでしょうか?

ウイルスベクターワクチンは2回接種しても発症予防効果は約70%なので、mRNAワクチンと比べると効果の差が大きいです。こうしたことから2回接種のうち1回はmRNAワクチンを接種することで、効果を上げようというのが交差接種の目的のひとつです。ただどれくらいの予防効果が上がるのかについては、交差接種の実施数が少ないことから正確には分かっていません。安全性については問題ないという研究結果が出ていますが、交差接種による副反応の出方などに関しても不明点はあります。mRNAワクチンの場合には交差接種は不要で、ベクターワクチンの場合には交差接種も考慮してよいのかもしれません。

―ブースター接種についてはいかがでしょうか? アメリカでは、9月20日の週からスタートするようですが。 3回目の接種をすると抗体価(ウイルスに対抗する物質である中和抗体の量)は、2回接種よりもさらに大きく上がります。これにより時間の経過とともに低下する感染予防効果を底上げできると考えられます。よって3回目の接種は感染拡大やブレイクスルー感染を抑えられるのではないかと期待されています。特に医療従事者のように感染者との接触機会が多い人や、重症化リスクの高い人は、より早めの3回目接種が検討されるかもしれません。

アメリカの指標に従うとすれば、2回目接種から8か月後くらいが3回目接種の目安です。日本では医療従事者が2021年3月頭にファイザー製ワクチンの2回目接種を完了しています。そこから8か月後となると、11月頃からがブースター接種を始める時期とも考えられますね。

―ただ11月になっても1回目の接種ができていない希望者がいる可能性もあります。その場合、優先順位はどのように考えればいいでしょうか? 優先順位はどこまでも「1回目を接種していない人にいち早く接種すること」です。ブースター接種は後回しでいいと思います。

ワクチンに関する情報はクロスチェックで見極めるべき

―今、メディアやSNSでワクチンの情報が溢れています。正しい情報を選択するためにはどうしたらいいのか、峰先生のお考えを伺えますか? まず「絶対に真実だけを言う人は世の中にいない」と考えた方がいいかもしれませんね。専門家であっても、公的機関であっても、間違える可能性は多いにあります。それを踏まえると「たくさんの専門家の意見が一致していることは何かを知る」ことがポイントだと思います。日本の厚生労働省、米国のCDCやFDAそれからWHOなどの公的機関から出る情報は、たくさんの専門家が関わっているので、ここからの情報は基本としておさえておくといいでしょう。

―まずは専門家の最大公約数的な意見に耳を傾けるということですよね。 その通りです。たとえ有名な専門家であっても、数名しか言ってない偏った見解は疑ってかかったほうが賢明でしょう。もし真実味があったとしても、公的情報を含めた複数の情報源とあわせてクロスチェックをする、ひとつの情報源だけを信じることはしないといった努力が必要になると思います。
もちろん公的機関も間違えることはありますし、情報を丁寧に取捨選択するのは手間がかかることです。しかしデマに騙されてワクチンを接種せず、不幸な結果になってしまったとしても自己責任であり、痛い思いをするのは自分自身です。

―いずれにしても「ひとつの情報を信じすぎないようにすること」が大事だと。 テレビで言っている、新聞に書いてある、誰々さんが言っている、だから正しいというのは、ただの信仰でしかありません。もちろん「世界でその人しか主張していなかったことが当たる」という可能性は完全には否定できません。しかしワクチンに関しては、そうした主張が当たる確率は非常に低いのではないでしょうか。正しい情報を選びたいのなら、必ず情報をクロスチェックする、偏った情報を盲信しない、これに尽きると思います。

制作協力
峰 宗太郎(病理専門医)
医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学。ワクチンの情報、医療リテラシー、トンデモ医学等の問題をまとめている。
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