3回目のワクチン接種を前に、気になることを専門家が解説

 

制作協力:木下喬弘(救急専門医、外傷専門医、公衆衛生修士)、安川康介(米国内科専門医、米国感染症専門医)、曽宮正晴(大阪大学産業科研究所)

第5波は収束したものの、国内初のオミクロン変異ウイルスの感染が確認されるなど、第6波への警戒は続いています。そんななか、日本でも3回目のワクチン接種がスタートしましたが、現時点では接種すべきかどうか決めかねている人も多いのではないでしょうか。そこで、第6波の可能性や3回目接種についての基本的な考え方などについて、木下喬弘さん(救急専門医、外傷専門医、公衆衛生修士)、安川康介さん(米国内科専門医、米国感染症専門医)、曽宮正晴さん(大阪大学産業科研究所)に聞きました。(取材日:2021年11月11日)
※取材時の内容を2021年12月7日段階の情報をもとに構成して作成しています。

―第5波が収束したのはワクチンの効果ですか?

木下:もちろん、ワクチン接種が進み免疫を持つ人が増えたことも、感染が再拡大せずに抑えられている要因の一つでしょう。ただ、第5波が収束した最大の要因は「感染対策をする人が増えたから」だと考えられます。ウイルスは人から人へ、主に飛沫により感染するものであることが周知され、リスクが高い行動についても認識が広がっています。また、第5波の際に医療逼迫が盛んに報道され、重症化することへの危機感を持ったことで、感染対策をした人が増えたのではないでしょうか。
なかには「第5波収束の原因が分からない」と言う人もいます。これまでに比べて大きく夜間の繁華街の人流が減ったわけではないし、ほかに何か特殊なことが起きていたわけでもないのは事実です。しかし、個々の感染対策の強度は、人流などと違って簡単に計測することができません。例えば「マスクを外した状態で、大きな声で会話をしない」といった当たり前のことをやる人が増えたとしても、それは測れませんよね。ただ、ここまで新規感染者数が減ったということは、この当たり前の感染対策を多くの人が守ったからではないでしょうか。

安川:「ワクチン」と「基本的な予防対策」。この組み合わせが、減少の要因だと考えられます。「エラー・カタストロフ」(ウイルスが自滅した)のような説も囁かれていますが、日本でだけそうした特別なことが起きているとは考えにくいでしょう。やはり、この2年近くで「ハイリスクな行動」をとる人が減り、多くの人が基本的な感染対策を続けてきたことが大きいのではないでしょうか。

曽宮:第5波が収束した要因について、なかには突飛な仮説も出てきています。ここまでガクっと感染者数が減少したことに対し、何かしらの説明をつけることで心理的な安心を得たいという気持ちは理解できます。ただし、明らかにおかしな説をもてはやしたり、それに飛びついてしまうのではなく、やはり基本的な感染対策をこれからも続けることが大事なのではないでしょうか。

―第6波は来ますか?

木下:難しい問いですが、現段階で言えるのは「感染対策をやめてしまえば確実に増える」ということです。ワクチンの接種率は上がりましたが(※12月7日時点の2回目接種率77.2%)、ブレイクスルー感染も起こっていますし、接種から日数が経つほどその可能性が高まることは他国のデータからも明らかです。やはり3回目の接種をしない限り、いずれ感染は再拡大し、第6波を引き起こしかねないと考えています。

―感染対策は今後も必要ですか?

木下:繰り返しになりますが、感染対策をやめてしまえば増えるのは確実です。ただし、現実的には「三密の回避」が難しい業種も数多くあります。それをどれくらいまで緩和し、どれくらいまでなら感染者数が増えても許容する社会にしていくか。この点については、もう少しコミュニケーションが必要ではないかと考えています。個人的には、マスクの着用など経済的なデメリットが少なく、かつ有効な感染対策は継続していくのがいいと思います。

安川:感染対策には「社会的、経済的な痛みを伴うもの」と、そうではないものがあります。例えば個人がマスクをして生活をすることは、それほど大きなデメリットがあるわけではないため、できるだけ続けていくことが無難です。僕が住んでいるアメリカでは、ワクチンを受けたらマスクを外しても良いという方針を出すなど、基本的な感染予防行動をややないがしろにしてしまった側面があります。結果的に、ワクチンだけではダメで、やはり基本的な感染対策が必要なのだと多くの人が学んだのではないでしょうか。
一方で、飲食店や自営業の方など、一部の人に経済的なダメージが大きい感染対策については、やはり緩めていかなければならないと思います。「やる・やらない」の極端な二択ではなく、感染状況を見ながら火加減を調整していくことが必要になるのではないでしょうか。

曽宮:社会全体で一斉に感染対策をやめてしまうのは反対です。そのうえで大切なのは、各自が自分自身の「リスクと許容度」を考えて行動することではないでしょうか。つまり、自分や家族、よく会う友人のワクチン接種状況、重症化リスクをふまえて行動範囲を決めていく。その結果、感染や重症化リスクが非常に低いのであれば、さまざまな活動をしていいと思います。個人的には、ワクチンを打った家族や友人と外食をすることについては、全く恐怖心を感じません。
ただ、そうはいってもエビデンスに基づいた感染対策の指針も必要ではないかと思います。日本でもスタジアムなどの実証実験が行われていますが、科学的な手法でリスクと安全性を検証したうえで解放していくことが大事です。
―3回目接種は必要?

木下:大事なことは、「社会としてどんなゴールを目指すか」という考え方ではないかと思います。「重症者を増やさないようにすること」だけを目指すのであれば、そもそも若年層は重症化リスクが低いわけですから、必ずしも全員がブースター接種(3回目接種)を受ける必要はないのかもしれません。しかし、ゼロコロナとは言わないまでも「日々の感染者数を低く抑え、より安全に社会経済活動を回すこと」を目指すのであれば、若年層も含めて多くの人が3回目の接種を受けることが望ましいと思います。まずは国としてどんな出口を設定するのかを、いろんな立場の人を交えてしっかり話し合われるべきではないでしょうか。
一方で、「社会としてのゴール」と「個人としてのゴール」は必ずしもイコールである必要はないと思っています。例えば私自身は3回目を接種しなかったとしても重症化のリスクは低いと考えられます。しかし、ブレイクスルー感染をして2週間入院するといったことは避けたいため、絶対に打ちたいんです。そうした、個人の「接種したい」という気持ちも尊重される社会であってほしいと思います。
そうした社会と個人のゴールを踏まえたうえで、3回目接種については世代ごとにレイヤーを分けて呼びかけを行うことも必要かもしれません。例えば、高齢者の接種については「推奨」とする。一方で、若年層は推奨ではなく「接種可能」といった表現にして、接種の機会は提供するけれども、「打たない」という選択をした人も守る。そんなふうにバランスをとりながら、ワクチンに対する社会的な合意形成をしていくことが大事なのだと思います。

安川:私も木下先生のお話に同意します。実際、アメリカでは65歳以上は「should receive」(接種推奨)、それより下の世代は「may receive」(接種可能)という形で、ワクチン接種の推奨レベルを段階的に分けています。このことは、これから3回目の接種を進める日本においても重要な視点ではないかと思います(ただし米国のCDCは11月19日より、18歳以上全ての人をブースター接種の対象に拡大)。
そのうえで、一人ひとりが3回目の接種を受けるかどうか判断するにあたっては、考慮するべきファクターが大きく3つあると思っています。
1つ目は、その人個人の感染リスク。地域でどれくらい、どの変異を持ったウイルスが流行しているのか、自分がどれくらい人と接触するのか、生活する地域でどれくらいの人がワクチン接種しているのか。
2つ目は、その人が発症し、重症化するリスク。個人の年齢や基礎疾患など。またワクチン接種後の効果の持続、どれだけ効果そのものが下がっているのか。
3つ目は、重症化しないにしても、感染・発症することでどれくらい自分の生活や周りの人に影響があるのか。例えば、周りに重症化するリスクがある人がいる、自分が感染・隔離することで生活に大きな影響が及ぶ、など。
これらを個人がそれぞれ考慮したうえで判断することだと思います。

曽宮:ブースター接種のメリットについては確かなエビデンスがあり、高い抗体価に基づく感染予防効果が得られるのは間違いないでしょう。ただし、もちろん副反応はありますので、そこは2回目までの接種と同様に「ブースターで得られるメリットと副反応のリスクを比較して考える」ということが大前提だと思います。
また、この先(インフルエンザワクチンのように)毎年接種する必要があるかどうかは、変異ウイルスの動向など不確実性の高い要素が複数あるため、現時点では分かりません。そもそも、昨年の時点では「人口の6~7割がワクチンを2回接種すれば集団免疫が獲得できて、それ以上広がることはない」と考えられていました。しかし、最近になって時間の経過とともにワクチンの効果が減衰していくことが分かり、さらに感染伝播性や免疫逃避能の強い変異ウイルスが出現し、ブースター接種の必要性が浮上してきたわけです。
つまり、進行中のパンデミックに対してエビデンスを積み上げていく過程で、ワクチンに対する考え方は変わっていきます。そこで「3回目が必要だなんて聞いていない!」と否定的にとらえるのではなく、最新の科学的なエビデンスをもとに冷静に判断することが大事なのではないでしょうか。

画像:アフロ

制作協力
木下喬弘(救急専門医、外傷専門医、公衆衛生修士)
日本救急医学会、外傷学会専門医。2010年大阪大学医学部医学科卒。大阪の救命救急センターで9年間勤務した後、2019年にハーバード公衆衛生大学院に入学。日本のHPVワクチンに関する医療政策研究で、2020年ハーバード公衆衛生大学院卒業賞を受賞。

安川康介(米国内科専門医、米国感染症専門医)
ワシントンD.C. MedStar Washington Hospital Center ホスピタリスト。2007年慶應義塾大学医学部卒業。日本赤十字社医療センターにて初期研修を終了後、渡米。ミネソタ州ミネソタ大学医学部内科レジデンシー、テキサス州ベイラー医科大学感染症フェローシップ修了。米国内科専門医・感染症専門医。

曽宮正晴(大阪大学産業科研究所)
生物工学を専門にする研究者。名古屋大学大学院生命農学研究科にて2016年に博士(農学)を取得。国立がん研究センター研究所特任研究員、日本学術振興会特別研究員SPDを経て、2017年から大阪大学産業科学研究所の助教として、ナノ粒子のRNA送達技術などの基礎研究に従事。

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