【医師の解説】屋外では外してもOK? 夏場のマスクとの付き合い方

 

取材・執筆:末吉陽子(やじろべえ) 制作協力:谷口俊文医師<千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科>

夏場のマスクの着用は、熱さや汗によるムレ、不快感がより一層高まるもの。コロナ禍の収束はまだ先になりそうですが、今年5月には政府が「一定の距離があれば屋外ではマスクを外すことを推奨する」など、マスクをめぐる対策には変化が見られています。コロナ禍で迎える3度目の夏、どのようにマスクと付き合えば良いのでしょうか。感染症の専門医に聞きました。
※2022年6月6日時点の情報をもとに作成しています。

屋外でマスクを外すときに意識したいのは「身体的距離」

――政府は、基本的対処方針(2022年5月23日変更)にもとづく感染防止策として、「屋外において他者と身体的距離が確保できる場合、他者と距離がとれない場合であっても会話をほとんど行わない場合はマスクの着用は必要ありません」と発表しました。この方針は妥当だと思われますか?
出典:政府「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針変更(令和4年5月23日)」

妥当だと思います。そもそもの話、以前から感染症の専門家の中では、「身体的距離を確保できてさえいれば、屋外でのマスク着用は不要なのではないか」という声が多く、私もその立場でした。しかし、現在の状況をみると、日本では屋外でも常にマスクを着用することが根付いています。
――それはなぜでしょうか? 理由はいくつか考えられますが、屋外でも感染するケースがあったことが大きいかもしれません。たとえば、2020年のゴールデンウイークから夏にかけて、屋外でのバーベキューでコロナに感染する人がいました。実際のところ、身体的距離が取れていない状態で会話をすると、屋内外問わず感染リスクが高まります。
――つまり、「屋外では人との距離を確保していれば感染リスクはほぼないので、マスクを外しても良い」ということですよね。このタイミングで、政府が方針を明確にした理由をどう考えれば良いでしょうか? 2020年の最初の流行期はウイルスの特性が分からなかったのと、ワクチンもなかったので、呼吸器感染症であることがわかっていた新型コロナウイルスの感染対策はマスクが重要視されました。そして今、2年経ってワクチンや治療薬が登場。こうした変化に加えて、新型コロナウイルスがどのように感染するのか徐々に明らかになり、またマスク着用の有効性に関する科学的な根拠も明らかになってきました。


――マスクの効果に関する研究も日々更新されているということですね。 そうですね。現在までに分かっていることを総合的に踏まえて、「いつでもどこでもマスクを着けることは、対策としてはオーバーなのではないか」という意見が専門家の間でも強まり、緩和の方針が定まったのではないかと推察しています。
――身体的距離の目安は、2メートル以上とされています。なぜ2メートルなのでしょうか? 2メートルという距離は、会話や咳をしたときに飛沫(ひまつ)が広がる距離に該当します。新型コロナウイルスは主に飛沫によって感染しますので、この飛沫を浴びない距離ということを考えれば、2メートルは妥当だと思います。
――なるほど。感染原因を遠ざけるために必要な距離ということですね。 そうですね。例えば運動すると呼吸量が多くなり、感染のリスクが高くなることがわかっています。屋外でも中高生の部活動でクラスター化しやすいのはこのためで、それを考えるとやはりマスクがない状況で活動している場合には飛沫の曝露を受けないように一定以上の身体的距離を保つことは重要です。ただ、飛沫以外にもエアロゾル(空気中を浮遊する微小な粒子)で感染することがあります。屋外ではエアロゾルの滞留は問題になりにくいのですが、屋内で換気が悪いところだと、2メートル以上の距離が離れていても感染するリスクがあることがわかっていますので注意が必要です。

空気が滞留しやすい屋内では、基本的な感染症対策を忘れずに

――屋内でのマスク着用については、いかがでしょうか? 政府の基本的対処方針によると、屋内でマスク着用を推奨するケースとして、「他者と身体的距離(2m以上を目安)がとれない場合」「他者と距離がとれるが会話を行う場合」の2つを挙げています。つまり、「屋内において他者と身体的距離がとれて会話をほとんど行わない場合は、マスク着用は必要ない」ということになります。
――屋外では距離がとれずに会話を行う場合に限りマスク推奨ですが、屋内では「会話をするなら、距離は関係なくマスク推奨」ということですね。 そうなります。会話の有無が異なる部分です。特に換気の悪い密閉空間はエアロゾルの滞留が懸念されますので、感染症対策としてマスク着用が望ましいと思います。屋内での感染リスクは、感染者とのマスク無しの会話や換気状態が悪いときなどに高まりますので、引き続き「三つの密」(密閉空間、密集場所、密接場面)の回避は基本の感染対策とされています。

夏のマスクは汗によるフィルター性能の低下に注意

――夏は暑くてマスクをつけたくないと考える人も増えそうです。屋内外でマスクを着用するときの注意点を教えてください。 暑いとマスク着用の不快感が高まりますよね。マスクの内側が汗やムレですごく湿っているような状態になりがちです。明らかに濡れているようであれば、マスクの種類によってはフィルター性を損なう可能性がありますので、新しいマスクに代えた方が良いでしょう。とはいえ、フィルターがどれくらい湿ったり濡れたりしたら、感染リスクを高めるくらいにマスクの性能が損われるかというと、まだわからないところが多いのが実際のところです。また、マスク着用のタイミングを考えて、感染リスクの低いときにはマスクをはずしてもよい、ということを知っておくのは大切なことだと思います。
――なるほど。今後は季節を問わず、臨機応変に対処することが必要なのですね。 そうですね。特に日本人は他人への配慮の気持ちが強い国民性だと思いますので、「人に迷惑をかけたくない」「マスクをしていないと変な目で見られそう」という心配があるかもしれません。実際に、マスクは非常に効果的で、感染リスクを下げることはが分かっています。ただ、ワクチン接種が進んできた今、徐々にマスク着用に対する意識を変えていくことも必要です。その意味でも、政府の基本的対処方針で示していることは、それなりに科学的根拠に基づいていると考えられるので、良い判断だったのではないでしょうか。これをきっかけにマスク着用に関しては、状況に応じて変えていくというスタンスになれば良いと思います。

制作協力
谷口俊文(医師)
専門はHIV感染症、移植感染症や一般感染症。2001年千葉大学医学部卒。2013年千葉大学大学院医学研究院にて医学博士取得。現在は千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科に所属。

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